洗体戦隊

クソ大学生の日々の日記

ホラー小説 その弐

俺はフジタが許せない。あのエレベーターでの所業。人間の心を持っているのならできるわけがない。奴は悪魔だ。人間の皮を被った悪魔なのだ。なんだって何の罪もない母子に暴力を振るうことでできるのだ。奴に然るべき裁きを与えなければならない。しかしどうやって。警察に突き出せば良いのだろうか。いや、奴のことだから口八丁手八丁で上手く逃れるに違いない。おそらくあの脂ぎった中年の男に全てひっかぶせるのだろう。ダメだダメだ。それではダメなのだ。警察に突き出すのは得策ではない。半グレでも使って襲わせるか。いやいっそのこと俺が。そうだ。俺が直接奴を裁こう。それがせめてもの情けというものだ。

 

俺とフジタは大学の同期だった。同じサークルにも入り共に青春を謳歌した。サークルは警音サークルでフジタがボーカルで俺がギター。俺たちのバンドは大学内外でも有名だった。それくらい俺たちのバンドはレベルが高かった。

 

もちろん一番人気はボーカルのフジタだった。そこに俺も含め他のメンバーも異存はなかった。奴のルックス・歌唱力・パフォーマンス。全てがプロレベルだった。おまけに当時の奴は性格も頗る良かった。遊び、サークルにのめり込みすぎて勉学がさっぱりだったがそれはご愛敬だろう。

 

それがいつしかフジタが歪んでいった。理由は奴がゲイに目覚めたからだ。それまでは奴は大の女好きだった。人気があった奴は女を抱きたい放題だった。だのに何故か突然女を抱けなくなった。突然にだ。

 

極上の女を前にしても一切興奮しなくなる。しかし筋肉モリモリの男を見ると前屈みになった。これはフジタを大いに苦しめた。この俺がホモになる。そう考えるだけでフジタは目の前が真っ暗になったことだろう。世間からの目。人気者のフジタが突如ゲイとの告白。容姿が良いフジタはそっちの世界でもおそらくそこそこ人気が出るはずだがそんなことはどうでも良かったに違いない。

 

これを機にフジタはありとあらゆるものを憎むことになった。単なる八つ当たりである。しかし少しは同情に値するだろう。突然、自分の性の対象が変われば誰だって恐慌状態に陥り自棄になるに違いない。それはある程度は仕方がないことなのだろう。しかし奴の場合は他人を巻き込む自棄の起こし方だった。これは当然看過されるべきことではない。

 

それ以来フジタは気に入らないことがあればすぐに暴力を行使するようになった。あのエレベーターでの所業のように。そして俺と奴の友情関係は終わった。

 

俺は四階の図書館に入った。雑誌コーナーから旅行誌を取り出し、備え付けのふかふかの座り心地抜群のソファに座り読む。実に良い気分だ。落ち着く。何何、京都特集だって。俺はこう見えても京都が大好きだ。神社仏閣にわびさび。京都最高!行ったことないけど。

 

俺が良い気分で雑誌を読んでいると後ろの席から汚らしい咳の音が聞こえた。ごほっがぼっゴホゴホぉぉオォオノオオオォォォ-おおおおおおおおおおおおおおおおお。何だ。これは。後ろを振り返るとうねうねと曲がりきった髪の中年の女だった。

 

ゴホゴホゴホゴホゥうううううゥがほがほがほおおおおおおおおおおおおおおおおゥ宇うゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!?!?!?!?

 

俺は我慢の限界だった。

 

おい、婆さん。気色が悪い咳してんじゃあねえぞ・・・・・・・・・・・・・・・・。俺はゆらりと立ち上がり戦闘態勢に入った。ぶちのめす。この腐れ婆を完膚なきまでにぶちのめす。そう決意した瞬間婆さんが口を開いた。

 

ホモについてどう思う?

 

は?

 

だからホモについてどう思う?

 

なんなんだよ。突然。意味がわからねえよ。頭湧いてんのか?婆さん。

 

いやいや。ほら、最近テレビでちょっとホモのことをネタにするようなことがあるとすーぐにホモの対して差別だーみたいな空気があるじゃない。

 

ああ。確かに。あるな。

 

それが納得いかないのよねーー。あたしは。昔からしょっちゅうネタにされてたじゃない。おねえキャラだって。馬鹿にされてきてキャラとして確立したわけでしょ。それを何をいまさらって感じー。

 

じゃあ、婆さんはホモが馬鹿にいくらネタにされたって、馬鹿にさてたって、良いというのかよ。

 

そりゃ、そうでしょ。馬鹿にされる存在なわけじゃない。いや、勘違いしないでね。別に昔の穢多非人みたいに差別したいってわけじゃないのよ。ただオカマかっとかホモかっみたいなつっこみも禁止にされるようじゃつまんないと思ってるのよ。

 

じゃあ、なんだ。ホモはお茶の間にエンターテインメントを提供し続けないといけないというのか。婆さんよお。あんたがもしホモの立場だったどうすんだよ。同じように馬鹿にされて嬉しいのかよ。

 

あんた、ちょっとさっきからなんなの。なんでホモの肩ばっかり持つのよ。もしかしてあんた。

 

俺は我慢の限界だった。いつもならここで婆さんのぐちゃぐちゃにする。ただの肉の塊にする。しかしここで俺はキレるわけにはいかなった。なぜならこの場でキレるということは俺がホモであると肯定するようなものだからだ。こんな公衆の面前で自らをホモであると宣言したくなどない。

 

結局の所、俺の中でもホモ=恥じだという認識なのだ。だってそうだろう。気持ちが悪いじゃないか。男が男を好きって。男同士でヤるんだぜ?お互いのちんぽこ舐め合うんだぜ?ケツにちんぽこぶっさすんだぜ?それであああああううううあうあうあうあうあうあうああうあうああああ!!!!!!とか野太い声で喘ぐんだぜ。気持ち悪いったらありゃしねえ。まあそれもそのうちの一人なんだけどさ。でも日本ではまだまだホモへの偏見は根強く残っている。そんな中で自分はホモだと言ってみろ。周囲からの奇異・侮蔑の視線が俺を襲う。俺はそれに耐えられない。なぜなら俺は人気者なのだから。イケメンで歌が上手くてパフォーマンスにも定評がある人気バンドのボーカルだったのだから。どんな女だって抱けたのだから。二重の意味でな。

 

 

 

拝啓 お袋へ

 

お元気ですか?俺は元気です。

 

そろそろ就職のことを考えなければいけない時期です。

 

俺はそっちに戻ろうと思っています。やっぱり家族が一緒にいることが一番だと思います。

 

昔からの仲間も大勢いるし、穏やかな日々を過ごせることと思います。

 

では就活解禁日になったらそっちで就活を始めるので、その時に会いましょう。

 

 

 

じゃあな。婆さん。あんたとは一生分かり合えそうにねえな。

 

俺は図書館を後にした。