洗体戦隊

クソ大学生の日々の日記

人生において

最近隣の部屋から女の喘ぎ声がうるさい。毎晩毎晩大音量の艶っぽい声が響いてくる。正直羨ましくて仕方がない。僕なんてここ三年は女体に触れていない。というか女とまともに話していない。

 

羨ましくて、悔しくて力の限り握りしめた拳の内側から血が一滴また一滴と零れ落ちていた。血が雨だれの滴となって零れ落ちていく。僕はこのことを一生忘れないだろう。しかし隣の奴は決してイケメンではない。

 

イケメンではないどころかもったりした奴だ。なんであんな奴が毎晩ヤッて、僕はそれをオカズに毎晩自分で慰めなければならないんだろう。世の不条理を嘆く。

 

それでも体は正直だ。僕は悔しくてたまらないのに、隣から聞こえてくる喘ぎ声を聞くと僕の僕はこれでもかと膨張する。体が無意識に壁に耳をぴったりと付け、鮮明に音を聞こうとする。

 

こんな生活から早く抜け出したい。そう思い部屋を弾丸のように飛び出した。外に出てふと隣の部屋を覗くと例のもったりとした男がパソコンで大音量でAVを食い入るように見ていた。女の喘ぎ声はAVだった。僕は虚像に振り回されていたのだ。

 

結局のところ隣の奴も僕と同じ穴のムジナだった。この日を境に僕と隣の奴は親しくなった。お気に入りのAVを貸し借りするようにもなった。こうして輪をかけるようにますます女と無縁の生活になった。それでも心は満たされていた。仲間ができたから。

 

 

 

真夜中の最中

僕には趣味らしい趣味は何一つない。自分でもつまらない人間だなとは思う。熱中できる趣味がある人間は幸福だと常に思う。趣味が人生を豊かにし、幸せにするのは火を見るよりも明らかだ。そういうわけでこのままではいかんと思い、最近趣味として始めたことがある。深夜の散歩だ。これはとても気持ちが良い。

 

草木も眠る深夜に一時間程街を散歩する。昼間とは打って変わりすっかり閑散とした街は、まるで生きている者が自分だけだと錯覚しそうになる。仮にそうなったとしても特に困ることがないことにも気づく。現に今日も誰とも話していないし、明日も話すこともないだろう。いやバイト先で事務的な会話はするか。

 

とにかくこの世界に生きている者が僕だけになったとしても特に困らない。この世界が生きている者で溢れている今だって僕は誰一人として関りを持っていないのだから。このように深夜の散歩をすると多少ネガティブなことも考えたりもする(苦笑)

 

そういえば青森の田舎にいたころも決まって活動的になるのは夜からだった。僕はコウモリのような夜行性の動物なのかもしれない。休日は夜になってからコソコソと実家を出てBOOKOFFやゲオ、書店なども無限ループしていた。おかげで漫画や本などにはとても詳しくなった。話をもとに戻すけど、この前深夜に散歩していたらぐでんぐでんに泥酔した50代前半くらいのおばさんに遭遇した。

 

場所は近所のコンビニの駐車場。これまで幾度も大学生とかサラリーマンとかが酔いつぶれて道端で寝ているのは見たことがあったけれどおばさんは初めて見た。このおばさんには家族がいるのだろうか。同窓会か何かの帰りだろうか。起こしてあげたほうが良いのだろうか等の考えが頭をよぎったが僕は躊躇した。

 

そのおばさんは吐瀉物まみれだったからだ。平たく言えばゲロまみれだった。良い年こいたおばさんが酔いつぶれてゲロまみれ。はっきりいって救いようがないし、ていうか触りたくない。けれど僕の中に確実に芽生えた感情があった。

 

その感情に僕は蓋をしようとした。決してその一線は超えては踏み越えてはならないような気がした。頭の中ではその線を越えてはならないと警鐘がなり響いている。だのに台風で氾濫した河川のようにこのとめどなく溢れてくるこの感情は制御することができない。僕はおばさんのゲロを見てどうしようもないほどもんじゃ焼きが食べたくなったのだ。

 

ゲロを見てもんじゃを食べたくなる。世間から見たら圧倒的サイレントマジョリティなのはわかっている。けれどこの衝動は止めることはできない。そのまま僕はコンビニ入り血眼でもんじゃを探した。当たり前だがコンビニもんじゃは置いてない。コンビニは決して万能ではないのだ。

 

しようがないから僕はお好み焼きを買った。ギリ同じカテゴリーに分類されるだろう。ついでに缶の味噌汁も買った。コンビニを出た僕はおばさんの足元に缶の味噌汁を置いた。さようならおばさん。ふと空を見るとうっすらと空が白くなっていた。今日も一日が始まる。

 

吾輩は。。。。

その野良の黒猫は特定の飼い主はいなかった。近所に住む老婆が毎日深夜にこっそり餌をあげていた。その地区では地域猫を無くす運動をしていた。だから毎晩こっそりと餌をあげていたのだ。見つかると只では済まされない。その野良の黒猫は保健所に連れていかれて飼い主が見つからなければ殺されるし、老婆はルール違反者として近所から白い目で見られる。かと言って老婆にその野良の黒猫を飼う金銭的余裕はこれっぽちも無かったし、第一老婆の住むアパートではペットは禁止されていた。

 

しばらくするとある日を境に一切老婆の姿をぱったりと見かけなくなった。老婆は自室で死んでいた。理由は分からない。電気のスイッチを切るように簡単に老婆の命は打ち切られた。老婆は天涯孤独だった。野良の黒猫が唯一の家族であり、外界との接点だった。老婆の死体は市の職員が始末した。葬儀は行われなかった。

 

必然的に野良の黒猫は餌をもらうことができなくなりいつも空腹だった。その野良の黒猫は子猫の頃から老婆に餌を与えられいたから自分で餌を見つける術を全くもって知らなかった。空腹がピークに達すると野良の黒猫は大きな声で鳴き続けた。けれど誰一人としてそれを気に留めなかった。この都会で他人に、ましてや野良猫に憐憫の情を持つ人間なんていやしない。

 

それでもその野良の黒猫は鳴き続けた。鳴くことだけが野良の黒猫にできる唯一のことだった。すると近くのアパートからある男が出てきた。サラリーマン風の男でまだ若い。20代中盤といったところだ。手には金属バットが握られていた。外に出ると男はしばらくそのバットを無心で振った。バットがブオンブオンと空を切る音がやけに目立った。

 

金属バットが手に馴染んだのか男は振るのをやめた。その頃は野良の黒猫は男の足元にすり寄ってきて頭を必死にこすりつけていた。男はおもむろにポッケットから缶詰のようなものを取り出した。サバの缶詰だった。男はサバの缶詰の封を開け、野良の黒猫の元においてやった。野良の黒猫は一目散に飛びつき、ペチャペチャと音を立てて一心不乱に食べた。

 

 

男は野良の黒猫がサバ缶に夢中になっていることをしかと確認するとバットを野良の黒猫に思い切り振り落した。次の瞬間、野良の黒猫の具骸骨が砕ける音がした。野良の黒猫は声にならない叫びを一瞬だけ上げ動かなくなった。男はなおもバットを数回野良の黒猫に向かって振り落した。男の顔には薄い刃物のような笑みがこぼれていた。

 

 

【それを僕は見ていた】ただただ陰から傍観していた。別に恐怖で足がすくんでただ見ていることしかできなかったわけじゃない。鼻から関わり合いになるつもりなんて毛頭なかった。僕はいつだって傍観者だ。中学時代のクラス内のいじめだって、街中で暴漢に襲われている女だって見て見ぬふりをした。僕はいつだって傍観者だ。今までも、そしてこれからも。

 

 

 

追記

ホラーチックなものを書いてみたくてこのような内容になりました(笑)街中で襲われいたら警察を呼びます(笑)

 

池袋ウエストゲートパーク

目が覚めると真っ先に洗面台に向かった。前日から伸びているチクチクとした無精ひげを剃るためだ。蒸しタオルで顔を丹念に湿らし、シェービングフォームを塗りたくる。そしてまずは顎の下、喉仏に近いところを剃る。僕は髭が濃いほうなのでもちろん逆剃りでだ。

 

 

 

 

 

次に顎、唇の下、頬の順番で剃る。最後に鼻の下を剃る。それを終えると再び熱々の蒸しタオルで丁寧にクリームを拭きとる。これで髭剃りは完成だ。髭剃りは一種のイニシエーションだと思っている。髭剃りをしないと僕の長い一日は決して始まらないのだ。

 

 

 

 

 

余談だが僕は床屋の髭剃りも大好きだ。性格には人に剃られるもの大好きだ。いつも自分でやっているものを人にしてもらうのはなんだって気分が良い。特に髭剃りは確実だ。相手の手から丁寧にしなければという気持ちが如実に伝わってくるのが良い。毎日だってただ髭を剃ってもらうためだけに床屋に通いたいくらいだ。

 

 

 

 

話がずれそうなのでそろそろ元に戻すが、髭剃りを終えると僕は冷蔵庫から昨日の夜にセブンイレブンで買ったサンドウィッチを取り出し、勢い良く封を開けた。中は卵サンドだ。僕はこれが大好物でもある。毎日食べても飽きない。

 

 

 

 

そしてこれはコンビニのが望ましい。あの大量生産された人工的な濃い目の味付けが大好きなのだ。僕はそれを適当なチャンネルを見ながら食べると、歯を磨いて家を出た。特に行く当てはなかったが、せっかくの休日を日がな一日家にいるなんて考えただけでゾッとする。

 

 

 

 

 

家を出た僕は池袋に歩いて向かうことにした。距離は五キロほど。時間にして一時間くらい。丁度よい散歩だ。外は凍てつく寒気が弱まり。春の到来を予見させる陽光がポカポカとしていた。一時間ほど経って池袋に着いた。

 

 

 

 

 

僕はこの池袋が大好きだ。池袋は懐の深い町だ。僕みたいなお上りでいつまでたっても根無し草な人間をも受け入れてくれる。池袋には様々な人種の人間が行きかっている。ビジネスマンに大学生、オタクにヤンキーに外国人。僕はそれがとても心地よい。

 

 

 

 

 

東口は流行色が強い。サンシャインに乙女ロード、パルコに西部百貨店に大型書店となんでも揃っている。さらには食も活発で池袋はラーメンの激戦区でもある。

 

 

 

 

 

 

西口は文化色が強いのが特徴だ。単館映画館に東京芸術劇場、いくつもの古書店がある。さらにチャイナタウンもあり異国情緒溢れる景色も堪能することができる。この日は僕は東口のサンシャインシティに向かっていた。せっかくだからクレープでも食べようと思ったからだ。

 

 

 

 

 

サンシャインシティに向かう途中の池袋南公園が何やらコスプレをした人々で埋め尽くされていた。何かの催しでもあるのだろうか。それにしても彼らのコスプレはとても精巧に作られていた。前にどこかで聞いたことがったが手作りしている者もいるらしい。

 

 

 

 

 

あれほどの物を作るなんて莫大な手間と金がかかるはずだ。買うにしたって決して安くはない費用がかかるだろう。何が彼らを駆り立てるのだろうか。好きなアニメのキャラに憑依し一心胴体になりたい気持ちを僕に置き換えて考えると好きなサッカー選手のユニフォームを着てサッカーをするということだろうか。これならば確かにわかる気がする。

 

 

 

 

 

僕だって本田圭佑のユニフォームを着て一心胴体になりたい。でもテラフォーマーズのゴキブリのコスプレをした女の子気持ちはやっぱり理解できなかった。

 

隣の隣

今日気が付いた。大のお気に入りだったAV女優ではもう興奮できない自分に。気が付いてしまった。ペ〇スもDVDも擦り切れる程見たのに。なぜなんだろう。自分でもよくわからない。

 

 

そのAV女優は愛らしい顔と引き締まった体躯、それに反比例するかのようにたわわに実った乳房と三拍子揃っていて俺の理想を忠実に体現していた。初めてそのAV女優を見たときはこの世にまだこんな天使がいたのかと思うくらいだった。多いときはそのAV女優で一日五回はマスターベーションした。早いときは10秒足らずにで発射した。

 

 

このAV女優と枕を交わすことができるならばいくらでも払える、この身が破産しても良いと思えるくらいだった。金を集めるためなら時代遅れの銀行強盗だってする勢いだった。だのにそのAV女優で興奮できなくなるなんて。

 

 

 

はじめは自分の男性機能が弱まっているのかと思った。ためしに違うAV女優を見たらみるみるうちに下腹部に血が集まり、ペ〇スは鉄鉱石のように固くなった。どうやら男性機能自体は健全らしい。

 

 

 

もしかすると俺は自分でも気が付かないうちにそのAV女優に飽きてしまったのだろうか。贅の限りを尽くした高級フルコースも毎食続けて食べると飽き飽きしてくるということだろうか。いや俺にとってあのAV女優は高級フルコースではない。

 

 

 

生涯の伴侶なのだ。自分の愛する妻を毎日抱いているから飽きたという男もいるが、俺はそんな風にならない。深層心理ではもう既に飽きているのかもしれない。だからそのAV女優も見ても全くの少しに勃〇しないのかもしれない。

 

 

 

けれど俺は全力で抗う。セックスにマンネリ気味の夫婦だってあらゆる手を使ってそれを打破してきたんだ。それが愛ってもんだろう。だから俺はいつもの右手ではなく左手でピストン運動することにした。

 

 

 

お気に入りのAV女優を見ながら左手でピストン運動すると不思議と新鮮な気持ちになった。自分の左手のはずなのに全くの他人にしごいてもらっているかのような感覚になってくるのだ。まるでそのAV女優にしごいてもらっているように思えてくる。

 

 

 

目を閉じれば克明にその景色が見えてくる。そのAV女優が俺の横におり、ペ〇スをその白くか細い指で一心にしごくのだ。その情景は実に観念的に思われたが俺の頭の中で起こっていることである種の現実でもある。

 

 

 

想像と現実には実は分水嶺というものはない。本人が無自覚に設定しているだけだ。現実だと思えばそれは現実なのだ。こうして俺は左手を使うという技術を駆使してそのAV女優で発射することができた。

 

 

 

どんなことにも最適な解はある。それを諦めずに探し続けることができるかどうかだ。俺の場合は今回は左手でピストンするということだっただけだ。皆さんもたまには左手でピストンして欲しい。俺が望むのはそれだけだ。

 

 

 

テニスボーイの気持ち

コンビニに入る瞬間奇妙な男とすれ違った。男は丸坊主で浅黒く日焼けし無精ひげを生やし頑強な現場作業員といったような顔立ちで実際に体も逞しかった。上下おそろいの鼠色のスウェットを着ており右手にはさっき買ったであろう商品が入っている白いレジ袋を下げていた。

 

 

そして股間が【不自然なくらい自然】に盛り上がっていた。男のそのふくらみは決して男性の生理現象によるもの、つまり勃起による盛り上がりではないことは確かだった。勃起による盛り上がりなら先端が尖っているはずだ。

 

 

 

なのに男の盛り上がりは自然ななだらかな弧を描いていた。ふくらみはテニスボール大くらいだった。あれはもしかするとお金玉なのではないか。ただのお金玉が以上に大きい男なのではないか。

 

 

どうしても気になり男を見ようと振り返ると、同じタイミングで男も振り返っていた。男は目が合うと「なに見てんだぁくらぁあ」と独特な口調で言った。僕は「いえ、何も」と言っても「嘘つけぃくらぁああ」とまたも特徴のある喋りで返した。

 

 

この手の輩には何を言っても通じない。それならばいっそのことをあんたの以上にデカい股間を見ていたと伝えるべきだろうか。いや伝えるばきなのだろうなのだろう。そう思い僕は「ま、まりもっこりみたいな股間してますね」と言った。

 

 

次の瞬間男は詰め寄ってきて「だとこらぁ。いてこましたろか?兄ちゃんよおぉあ」とほぼゼロ距離で言ってきた。このままでは殴り合いになるかもしれない。それだけは避けたかった。はっきり言って僕はケンカが弱かった。ここで殴り合いになったら確実に負けるだろう。そして軽くはない怪我をするだろう。それだけは避けなくてはならない。

 

 

そして僕は懐から茶封筒を差し出し、「これで勘弁してください」と言った。大切なものだが仕方ない。今はこの状況から逃げ出すことが先決だ。男は満足げに茶封筒を受け取ると「まるで俺が金を脅し取ったみてえじゃねえかよォお。でも、ま、くれるってんならありがたくもらうけどよおおお」と言い茶封筒をポケットにしまった。

 

 

僕は「失礼」とだけ言ってこの場を後にした。男はもちろん着いてこなかった。男は何を勘違いしてるんだろうか。あれは金でなくただの猫の写真だ。僕は猫の写真を趣味で集めているのだ。お気に入りの写真は肌身離さず茶封筒にいれて持っているだけだ。金でも何でもない。あの男の中身を確認して悔しがる顔を想像するだけで気分が良い。もしかすると猫好きなら喜ぶかもしれない。これが弱者なりの戦い方だ。僕は晴れ晴れとした気分で帰路についた。

 

 

 

 

続ドラえもん~のび太の軌跡~

のび太は深夜の銀座の雑踏をあてどなく歩いていた。そして適当に目についたバーに入った。バーの店内は据え椅子が五個付いたカウンター席しかなくとても狭かった。のび太は一番ドアから遠い席に座った。気難しい顔をした初老のマスターに「ウイスキーオン・ザ・ロックで」と言った。

 

 

しばらくして運ばれてきたウイスキーのび太は指でちゃぷちゃぷとかき回し遊んでいた。のび太の心の中はウイスキーの綺麗な琥珀色と反比例するかのような黒ずんだ泥のようなもので埋め尽くされていた。のび太のそのような厭世的な気分が晴れたことは無かった。ドラえもんが消えたあの日から。

 

 

 

ドラえもんはある日唐突にのび太の前から姿を消した。そしてそれっきり戻ってくることは無かった。のび太は勉強した。遮二無二勉強した。その姿勢は以前ののび太からは全く想像できないものだった。当然の如く成績は急上昇した。それは戦後の焼野原からわずか10数年で世界有数の経済大国までのしあがった高度経済成長期に日本のようだった。

 

 

しかしその勉強は単純な向上心からのものではなかった。ドラえもんがいないことによって生じる心の隙間を埋めるための作業でしかなかった。絶えず勉強をすることでドラえもんがいない空白を埋めようとした。勉強して成績が上がれば上がるほどその空白は広がった。

 

 

成績が上がり周囲から一目置かれている自分の元にはドラえもんがまた戻ってくるとはとても思えなかったからだ。今ののび太は誰の目から見ても正真正銘のエリートだった。そしてそのまま名門私立中学・高校・と進み東京大学に進学に優秀な成績で卒業した。卒業後は財務省に入省し、現在は若手のホープとして扱われていた。

 

 

「今の僕を君が見たらさぞ驚くだろうな」誰にともなくのび太は呟いた。次の瞬間カランコロンと鈴の子気味良い音をドア立てて開かれた。静香だった。それは全くの運命のいたずらと言っても過言ではなかった。なにしろ二人は小学校を卒業以来一度も顔を合わせていなかった。けれども二人の間には時の流れというものが存在していないように感じられた。あの頃にスムーズに戻れるという確信が二人にはあった。

 

 

 

静香はのび太の席の隣に座り「彼と同じものを」と淀みなく言った。しばらくして運ばれてきたウイスキーをお互い無言でちびちび飲んでいると、静香がいきなりのび太の左手に自分の両手を重ねてきた。

 

 

「私のことずっと抱きたかったんでしょ?いいわ。好きにさせてあげる。今のあなたを見てるとどんな女でも慰めたくなるわ。心も体もね。」と悠然と言い放った。のび太はつかの間固まったが「君をずっと抱きたかった。初めて見た小学三年生のころからずっと抱きたかった。でも今はそんな気分じゃないんだ。悪いけれど。」と無表情で言った。

 

 

 

「どうして?」静香は質問した。「ドラえもんがいなくなってからそればかり考える日々を何年も送った。ドラえもんは僕の父であり兄弟でありたった一人の親友だった。彼がいなくなってからの僕はすでに終っていた。終わった存在になっていた。僕とドラえもんは二人で一つ。決して離れてはいけない存在だったんだ。こんなからっぽの僕に抱かれたら君の価値も下がってしまう」

 

 

そう言い放ちのび太は何枚かの紙幣を無造作にカウンターに投げ捨て店を後にした。「バカな人」と静香は呟いた。狭い店内には押しつぶされるような沈黙がいつまでも居座り続けた。