洗体戦隊

クソ大学生の日々の日記

国民的英雄について(ホラーチックです)

僕はずっと平凡だった。勉強だってスポーツだってルックスだって、全部が全部平凡だった。世間に出る才能なんてものはこれっぽちもも持ち合わせていなかった。でも英雄になりたかった。何かで英雄になりたかったんだ。だから人を殺すことにしたんだ。

 

 

                  *

 

 

高校生の頃に親友がいた。その親友はハンサムで、足が長くて、清潔でおそろしくスマートな男だった。僕たちは不思議と馬が合いいつもいっしょにいた。学校中の女が親友に憧れていた。失神しそうな勢いで憧れていた。親友が女に話しかけると今にも全身がとろけだしそうな目でうっとりと見ていた。当然、僕の存在は黙殺された。全くのいないものとして扱われた。成績だって良かった。いつも学年でトップだった。親切で誠実で思い上がったところが一つもなかった。大便をしてる姿でさえエレガントだった。一度も大便をしている姿を個室便所の仕切りの上に乗っかって覗いたのだ。その姿はまるでギリシャ彫刻が大便をしているようだった。もはやただの排泄行為ではなくアートの域だった。彼の存在がますます僕の英雄への憧れを駆り立てた。

 

 

 

                  *

 

 

 

 

僕は表参道にいた。懐には刃渡り30センチはあるナイフが忍ばせてある。今から僕はこの表参道でできる限りの人間を刺し殺す。そして僕は英雄になる。準備だって、二年間もかけた。柔道部に入り死に物狂いで心身を鍛えぬいた。努力の甲斐があってか僕の体は今までと見違えるような逞しいものになっていた。勉強だってがんばった。学年でトップとまではいかなかったけれどトップテンには入ることができた。

 

 

 

 

スポーツと勉強を頑張ると不思議と可愛い彼女だってできた。彼女と過ごす放課後はとても楽しかった。全てが上手くいっていた。そんな順風満帆な人生を送る男が大量殺人を起こせば大々的にメディアで報じられるはずだ。それが僕の狙いだった。僕は手始めに表参道駅から上がってくるモデル風の女を刺し殺すころにした。懐のナイフを握りしめる。歩を進めようとした瞬間に背中の僧帽筋あたりにひどく冷たいものを感じた。次におそろしいほどの痛みが襲ってきた。

 

 

 

 

どうやら僕は刺されたらしい。何度も何度も背中に力強くナイフを突き立てられた。10回以上は刺されたと思う。刺してきた奴は満足したのか、「これで俺は英雄だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」と狂ったように叫んでいた。ようやく合点がいった。僕と同じような考えを持った奴がいたということだ。どうやら先を越されたらしい。足元にはおびただしい量の血だまりができている。これじゃ多分助からない。

 

 

 

 

でも平凡中庸な僕としてはまあま面白い死に方だと思う。僕を刺した男は次々に笑いながら人を刺していく。狂った男による大量殺人の可愛そうな被害者の一人。まだ若く、成績も良く、部活だって頑張り、彼女だっていた前途洋々な若者がキチガイによって刺し殺される。うん。僕としては悪くないな。あとの顛末はあの男にでも聞いて欲しい。人々の叫び声をBGMに僕の意識は途切れていった。