洗体戦隊

クソ大学生の日々の日記

春よ~遠き春よ~

冬の凍てつく寒気が徐々に弱まり、春の到来を予見させる陽光が強みを増してきた。その光は全ての生き物に等しく降り注ぎ、生命活動を助長させる。それは変態・変人も例外じゃない。春は冬眠から目覚めた山の熊などだけでなく、変態・変人が各々の活動を再開する時期なのだ。今日は僕が出会ったそんな変態・変人のことを書こうと思う。

 

あれは昨日のことだ。僕はアルバイトの帰りだった。泥のように重くなった体で駅のプラットフォームのベンチに座り、電車を待っていた。瞼が鉛を乗せられたように重い。一瞬でも気を抜くと今にも寝てしまいそうだった。すると後方が何やら騒がしい。二人の男女が何やら騒いでいるようだ。振り返るのが面倒だったので耳だけ澄ませて聞いていると「起きてください!」、「電車来ちゃいますよ!」そう口々に叫んでいた。どうやら酔いつぶれた男性を二人組の男女が起こしているようだ。

 

しばらく二人組が声をかけ続けると、男性は起きてどこかへ行ってしまったらしい。「良かったですね」、「無事家に帰れると良いですよね」と口々に言っていた。会話からすると二人は先ほどの男性を起こすという共通の目的で知り合っただけらしかかった。すると男のほうが「今からあなたの家に行っても良いですか?」と突飛な提案をした。

 

女のほうはもちろん断った。男のほうはすかさず「じゃあ、今から飲みに行きませんか?」と新たな提案をしていた。見事なフット・イン・ザ・ドアだった。土台無理な提案を始めにふっかけ、次に譲歩案を提示し相手の心理的ハードルを下げるセールスの基本の技だ。女はまたも断った。当然だ。こんな小細工が通用するわけないのだ。男は血迷ったのかまたも「やっぱり今からあなたの家に行っても良いですか?」と提案していた。もしかするとボケのつもりなのだろうか。そうだとしたら怖ろしく笑えないボケだ。当然の如く女は即座に断った。その声には明らかな怒気が込められていた。

 

男はさすがに諦めたのか、「助け合わなきゃよ~!人間は助け合わなきゃよ~!助け合いだろうがよ~!」と意味不明なことを怒鳴り散らしながらどこかへ消え去った。男にとってはさっき出会ったばかりの女の家に行くことが助け合いなのだろうか。自分の身勝手な性欲を知り合ったばかりの女にぶつけることが助け合いなのだろうか。

 

しかし僕は男に一種の尊敬の念を覚えていた。草食系男子と揶揄される女性に奥手な男性が増えている昨今、あの男はさっき出会ったばかりの女に執拗にアプローチを繰り出していた。もしかすると酔っ払いを起こすことも全て計算の内だったかもしれない。そう考えるとあの男は「早食系男子」なのではないだろうか。アプローチの仕方は間違っていたかもしれないが、あのメンタリティーは決してバカにはできない。そんなことを考えていると僕が乗る電車がやってきた。

 

立ち上がると同時に、あの男がどんな女を口説いていたのか気になり後ろを振り返ってみるとそこにはとんでない不美人がいた。失礼極まりないのは分かっているのだが、お世辞にも綺麗とは言い難い容姿の持ち主だった。男よ、どんだけ溜まってたんだ。