僕はラーメンマンだ
僕はラーメンを愛しています。
狂おしいほどラーメンを愛しているのです。
僕ほどラーメンに敬慕の情を抱いている人間は見たことがありません。
どんな金銀財宝、地位、美女、食をもってしても僕の中でのラーメンの至上性は決して揺るぎません。
仮に着の身着のままの幼気な少女が僕の家を訪ねてきたとします。
その少女は家庭内暴力蔓延る荒廃した家庭環境にほとほと嫌気がさし、突発的に家を飛び出してきた家出少女です。
行く当てなどなく、しかし家に帰れば冷徹漢である父の折檻が待っています。
そんな時に偶然通りかかった僕の家から何やらおいしそうな臭いが漂ってきます。
この臭いは、ラーメンだと気が付いた少女はしばらく茫然と僕の家の前にたたずんでいました。
少女にとってはラーメンは大好物であり、最後に食べたのはもう思い出せないくらいはるか遠く昔です。
そして僕が外に人影に気付き、ドアを開けるのです。
たじろぐ少女。
しかし明らかにその興味は僕のダイニングテーブルから漂ってくるラーメンの臭いに向けられています。
ダイニングテーブルのは上には出来立てほやほやの熱々のラーメンが鎮座しています。
それはただのラーメンではなく、刻み葱に焼き豚、煮卵にメンマ、そして適量のコショウと向かうところ敵なしの布陣となっています。
少女は星の子を散らしたような綺麗な瞳を潤まして無言の哀願をします。
どうかラーメンを食べさせてくださいと。
僕は逡巡します。
僕にとってもラーメンは己の命よりも尊いものであり、武士にとっての刀と同義であるからです。
そして僕は決心します。
そのダイニングテーブルの上に置かれているラーメンを少女の眼前に持っていき勢いよくすすりあげます。
顔を左右に振りながらこれでもかとすすりあげます。
本能のまま豪快に食らいつくのです。
捕らえた獲物に貪りつく肉食獣のように。
そして、少女に対して延髄ものの食レポをします。
「んマーーーーーーいぃ!!」
「コシコシの麺とあっさりとしつこくないスープのが口の中でハーモニーを奏でてるーーーーーーー!」
「星三つ!!」
もちろんこれがどんなに非人道的な行為であることは重々承知しています。
しかしこのラーメンを少女に譲ることは僕にできません。
一生十字架を背負うことになろうとも譲ることはできないのです。
僕はラーメンを命がけで愛しているからです。
目の前に熱々のラーメンがあるのに、それをわざわざ他人に譲ることなんかできません。
それがたとえ女、子供、老人だとしてもです。
ラーメンのためなら喜んで悪魔に魂を売り渡します。
少女にラーメンを譲ることはできない、しかし少しでもラーメンを食べてる感を味わって欲しいから、少女の目の間でラーメンを食べ、食レポをするのです。
ただの嫌がらせではなく僕なりの愛なのです。
僕だって本心では少女にラーメンを快く譲りたい、しかしこればかりはできません。
己の気持ちに嘘をつく人生ほど悲しいもはないのではないでしょうか。
そろそろおわかり頂けましたか?
僕のラーメン愛を。
そんじょそこらのラーメン好きとは一線を完全に画しているのです。
例え悪に身を落としてでもラーメンを食らう覚悟がそんじょそこらの自称ラーメン好きにあるのでしょうか?
国家だろうが僕を止めることはできません。
いつの日か、ラーメンくらいのめり込める女性と巡り合いたいものです。